鉄は国家なり/ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像/津本 英利/おすすめ星4

おすすめ本

古代オリエントの歴史に触れると、エジプトやメソポタミアに次ぐ大国として「ヒッタイト」の名を耳にすることがあります。ところが、実際にどんな帝国だったのか、どんな文化を持ち、なぜ「鉄の王国」と呼ばれたのかまで深く知っている方は少ないのではないでしょうか。津本英利さんの『ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像』は、そんなヒッタイトの謎を最新の研究成果とともに解き明かしてくれる興味深い一冊です。今回は、本書の内容をわかりやすくご紹介しながら、ヒッタイト帝国の魅力を一緒に探ってみましょう。
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ヒッタイト帝国とは?

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ヒッタイト帝国は、アナトリア半島(現代のトルコ付近)を中心に紀元前17世紀頃から興った古代オリエント世界の強国です。エジプトやアッシリアのように派手な建造物や文献が豊富に残されているわけではありませんが、近年の考古学調査や楔形文字の解読が進むにつれ、その実像が少しずつ明らかになっています。特に首都ハットゥシャの遺跡は、当時の王宮や壮大な城壁の存在を感じさせ、ヒッタイトが相当の力を持っていたことを物語ってくれます。

「鉄の王国」の実像

ヒッタイト帝国の通称として知られる「鉄の王国」という呼び名は、世界でも早い段階で鉄の精錬技術を手にし、国家を繁栄させたというイメージに由来しています。ただし津本さんは、この「ヒッタイト=世界最初の鉄器使い」という図式を鵜呑みにせず、最新の研究結果をもとに検証を重ねているのが特徴です。青銅器から鉄器への移行は一夜にして進んだわけではなく、技術の発展や普及には地域的な差やさまざまな要因があったことが示されています。こうした視点を持つと、古代オリエントの技術革新がいかに複雑だったかを改めて感じられるでしょう。

繁栄と外交

本書の見どころの一つは、ヒッタイトが「鉄の力」だけで帝国を築いたわけではない、という点の掘り下げにあります。エジプトとの外交文書や粘土板の記録からは、ヒッタイトが周辺国と巧みに交渉し、時には戦いながらも独自の勢力圏を確立していった様子がうかがえます。カデシュの戦いでエジプト新王国のラムセス2世と対峙した場面などは、古代世界の壮大な“国際関係”を感じさせるエピソードです。彼らがいかに政治を動かし、どんな戦略で他の大国と拮抗していたのかを知ることで、ヒッタイト帝国のリアルな姿が鮮明になるのです。

研究の新たな地平

津本さんの本書が魅力的なのは、単なる通説の紹介で終わらない点です。たとえば「ヒッタイトが鉄を独占していたわけではない」という視座や、「王権の継承制度をめぐる粘土板文書の解読」など、専門的なテーマにもわかりやすく言及しています。これによって「ヒッタイト帝国とはこういうものだ」というイメージの塗り替えが進むだけでなく、古代オリエント全体の流動的な国際関係や、技術史の奥深さを改めて考えさせられるのです。

おわりに

『ヒッタイト帝国 「鉄の王国」の実像』は、まだ十分に知られていないヒッタイト帝国の歴史と文化を丁寧に紐解き、鉄器時代の発展や古代オリエントのダイナミックな交渉史を浮き彫りにする一冊です。「鉄の王国」の看板を掲げつつも、その実態は意外と複雑で、多面的な要素が絡み合っていたことを本書は説得力ある筆致で示してくれます。古代史ファンの方はもちろん、世界史の隠れたパズルピースを探している方にも、このヒッタイトの物語は大いに刺激と発見を与えてくれるはずです。過去の闇に隠れていた帝国の姿を、ぜひ本書を通じて追体験してみてください。

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