はじめに
2010年11月24日に刊行された安宅和人氏の著書『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』は、知的生産活動における根本的な考え方を提示し、多くのビジネスパーソンや研究者に影響を与えてきました。本書は、情報過多な現代において、何に取り組むべきか、どのように問題を捉え、解決していくべきかという、知的生産の本質に迫る一冊です。今回は、この名著を紐解き、その魅力とエッセンスを分かりやすく解説していきます。
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安宅和人氏とは何者か?
安宅和人氏は、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、イェール大学で脳神経科学の博士号を取得したという異色の経歴を持つ人物です。現在はヤフー株式会社に所属し、その知見を活かして活躍されています。ビジネスコンサルタントとしての経験と、科学研究者としての視点を併せ持つ安宅氏だからこそ描けたのが、本書『イシューからはじめよ』なのです。
「イシュー」とは何か?
本書の中心概念である「イシュー」とは、一言で言えば「答えを出すべき問題」のことです。しかし、単なる問題とイシューの間には明確な違いがあります。それは、「答えを出す価値があるか」「明確な答えが出せるか」という2つの軸で判断される点です。多くの人が、漠然とした問題意識や課題に時間を費やしてしまいがちですが、本当に取り組むべきは、この2つの条件を満たす「イシュー」なのです。
なぜ「イシューからはじめる」のか?
本書が提唱する「イシューからはじめる」というアプローチは、知的生産活動の効率を飛躍的に向上させます。なぜなら、無駄な作業を大幅に削減できるからです。多くの人が、情報収集や分析に多くの時間を費やしますが、そもそも取り組むべきイシューが間違っていれば、どれだけ努力しても意味がありません。最初にイシューを明確にすることで、限られた時間と労力を最も重要な課題に集中させることができるのです。
イシューを見極めるための5つのアプローチ
本書では、イシューを見極めるための具体的なアプローチが紹介されています。
- 一次情報に触れる: 論文、特許、ニュース記事など、信頼性の高い情報源に直接アクセスすることで、表面的ではない本質的なイシューを発見することができます。
- 基本情報を網羅的に整理する: 問題に関わる基本的な情報を整理することで、見落としていた重要な要素や、イシューの輪郭が浮かび上がることがあります。
- 現場に行く: 実際に現場に足を運び、現実に触れることで、机上では得られない貴重な情報や洞察を得ることができます。
- 人に聞く: 専門家や関係者など、その分野に詳しい人に話を聞くことで、自分だけでは気づけない視点や情報が得られます。
- 集めた情報でラフな仮説を立てる: 集めた情報をもとに、仮説を立ててみることで、イシューがより明確になり、調査の方向性を定めることができます。
イシューを分解する
イシューが見つかったら、次に重要なのはそれを分解することです。大きなイシューは、複数の小さなサブイシューに分解することで、より具体的に、そして取り組みやすくなります。分解する際には、「What」「Why」「How」といった視点から考えると効果的です。例えば、「売り上げが落ちている」というイシューであれば、「どの商品が(What)」「なぜ落ちているのか(Why)」「どうすれば改善できるのか(How)」といった具合に分解していくのです。
ストーリーラインを組み立てる
イシューを分解したら、それぞれのサブイシューに対する答えを導き出し、それらを論理的に繋げてストーリーラインを組み立てます。ストーリーラインは、最終的な結論に至るまでの道筋を示すものであり、聞き手や読み手にとって分かりやすく、説得力のある説明をするために不可欠です。
アウトプットを生み出す
本書では、アウトプットの重要性も強調されています。どんなに素晴らしい分析や考察を行っても、それを適切にアウトプットしなければ意味がありません。アウトプットの形式は、プレゼンテーション、レポート、論文など様々ですが、いずれの場合も、ストーリーラインに沿って論理的に構成し、分かりやすく伝えることが重要です。
まとめ:「イシューからはじめよ」は知的生産のバイブル
『イシューからはじめよ』は、単なるハウツー本ではなく、知的生産活動における根本的な考え方を教えてくれる、まさにバイブルと言える一冊です。情報が氾濫する現代において、本当に重要なことを見抜き、効率的に成果を出すためには、本書で提唱されている「イシューからはじめる」という考え方は不可欠です。ビジネスパーソン、研究者、学生など、知的生産活動に関わるすべての人にとって、必読の書と言えるでしょう。